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カレーによる食中毒を防止。ウエルシュ菌は見た目には分からない

カレーによる食中毒を防止。ウエルシュ菌は見た目には分からない

前日に調理したカレーなどの煮込み料理に発生した「ウエルシュ菌」が原因で、下痢などの食中毒を引き起こすことがあります。また、ウエルシュ菌に汚染された食品は見た目や臭いに変化がないため、給食施設やケータリングサービスなどでパンデミック的に発生する事例も報告されています。そこで、食品の適切な保存や再加熱などでウエルシュ菌を繁殖させない対策が求められます。

今回は、給食施設や飲食店などの事業者向けに、ウエルシュ菌が原因で起きる食中毒を予防するポイントを紹介します。また、このコラムは事業者だけではなく、一般家庭の食中毒対策でも十分応用できる内容になっていますので、ぜひ参考にしてください。

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前日に作ったカレーが食中毒の原因になる?(ウェルシュ菌の特徴)

前日までに大量に作った カレーやシチューなどが原因で食中毒を引き起こすことがあります。このような場合、食品中に繁殖した「ウエルシュ菌」が原因であることが疑われます。また、ウエルシュ菌はその特徴から、見た目や臭いではその存在を察知することが難しく、食品衛生管理において特に注意が必要な細菌のひとつです。そこで、まずはウエルシュ菌の特徴を深く理解しておきましょう。

ウェルシュ菌の主な特徴

ウエルシュ菌は、人や動物の腸管、土壌、水中など自然界に広く生息しています。特に食肉や魚介類での汚染率が高く、これらの食材を使った料理が原因食品になることがしばしば報告されています。

ウエルシュ菌は熱への抵抗性が高く、通常の加熱調理では死滅しないことがあります。それどころか、再加熱と「ゆるやかな冷却(徐々に冷めていく状態)」を経ることで、ウエルシュ菌は急速に増殖することが知られています。また、ウエルシュ菌は酸素がない状態を好みます。カレーなどは大きな鍋で作られることが多いことから、内部は酸素がない状態になりやすくウエルシュ菌にとって格好の繁殖条件となります。
「前日に大量に作られたカレーやシチューなどを室温に近い状態で保存し、翌日に再び加熱して、営業時間中にこれを繰り返す」という行為は、ウエルシュ菌の増殖を促す危険な行為となります。

ウエルシュ菌の症状や潜伏期間(回復期間)

ウエルシュ菌が発症するまでの潜伏期間は約6時間~18時間と短く、回復期間も1日~2日間ほどと短期間であることが特徴です。感染した際の主な症状は下痢や腹痛で、軽い症状であるというのも特徴です。

ウエルシュ菌は見た目で分からない

ウエルシュ菌に汚染された食品は、見た目や臭いに変化がないため非常に厄介です。そのため、汚染された食品を気付かずに口にし、下痢などの食中毒症状を引き起こすことがあります。事業者は、この特徴を深く理解し、普段から適切な衛生管理を施さなければなりません。

給食施設など、食事の提供施設では特に注意を(パンデミック的な発生リスク)

給食施設など、食事の提供施設では特に注意を(パンデミック的な発生リスク)

厚生労働省が発表している令和5年(11月速報値)のデータによると、食中毒の病因物質別患者数は、ウエルシュ菌は「ノロウイルス(3,914名)」「カンピロバクター(783人)」に次いで多い(503人)と報告されています。
また、ウエルシュ菌の食中毒事例は、給食施設やケータリングサービスなどの大規模な施設で発生したものが多く、パンデミック的に発生するリスクが高いといえます。特に、抵抗力が弱い小児や基礎疾患を持つ方が多い高齢者施設などでは、さらに細心の注意を払う必要があります。

ウエルシュ菌は「増やさない」が基本的な対策

ウエルシュ菌の中には100℃で数分加熱することで死滅するものもありますが、多くの場合、100℃で1~6時間加熱しても生存できると考えられています。このことから、調理時の通常の加熱調理では食品中のウエルシュ菌(芽胞)を完全に死滅させることは困難です。

このため、ウエルシュ菌による食中毒予防で「増やさない」を心がけた対策が基本となります。これは、ウエルシュ菌が食品中で増殖するのを防ぐことを意味します。

ウエルシュ菌を増やさない保存方法と加熱方法

カレーなどの煮込み料理を保存する際は急速に冷ますことで、ウエルシュ菌の増殖リスクを低減させることができます。
冷ます際は、冷蔵庫(または冷凍庫)で急速に冷やすことが推奨されますが、大きな鍋のままだと冷えるまでに時間がかかることがあります。この時間が長いほど菌が増殖する機会が増えることになるため、容器に小分けにするなど、より急速に冷やすよう工夫します。できるだけ前日の大量調理を避け、調理したものはなるべく早く提供(消費)することも重要です。

また、ウエルシュ菌は熱に強いため、再加熱する際は食品の中心部まで十分に加熱することが重要です。具体的には、100℃での加熱を数分以上行います。
また、ウエルシュ菌は熱に強い芽胞を作るため、再加熱する際は、加熱むらが生じないようにしっかり混ぜて十分加熱し、芽胞になる前のウエルシュ菌を「やっつけること」が重要です。

営業停止による「信用力」の低下を避ける(経営リスク)

ウエルシュ菌による食中毒は、症状が下痢などの比較的軽度なものであり、且つ、回復にも多くの時間を要しない場合がほとんどです。しかし、このような軽度なものであっても、多くが営業停止等の処分となっています。これは、食品関連事業者にとっては深刻な経営リスクを意味しています。

たとえ営業停止が短い期間であっても、一度失った信用を回復させることは非常に難しく、その影響は口コミやSNSを通じて広がり、長期的に事業の収益性に影響を及ぼす可能性があります。そのため、事業者は常に衛生管理を徹底し、このような経営リスクに備えなければなりません。

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事業者が心がける「食中毒の予防で大切なこと」

給食施設など、食事の提供施設では特に注意を(パンデミック的な発生リスク)

ウエルシュ菌に限らず、その他の菌やウイルス、アニサキスなどの寄生虫対策についても、食中毒の予防対策では、効果的且つ網羅的な衛生管理が重要となります。これは、食品を扱うすべての事業者にとっての基本であり、顧客の健康を守るために不可欠な取り組みです。

そのためには「食中毒予防の3原則」を意識した対策を講じることが重要です。また、この過程においては、属人的な偏向を生まないために客観的な評価やアドバイスが重要になります。外部の衛生管理の専門家によるチェックなど、正しい知識に基づく対策を講じながら、継続的な改善を行うことが衛生管理に求められます。

食中毒の予防で大切なこと1.「食中毒予防の3原則を守る」

食中毒を予防するためには、細菌やウイルスが食品に付着し、体内へ侵入することを防ぐことが大切です。このためには「食中毒予防の3原則」を心がけます。

  • 食中毒予防の3原則「つけない」
    「つけない」とは、手指や調理器具、汚染された食品から食中毒の原因物質やウイルスを食べ物に付けないようにすることです。
    基本は徹底した手洗いです。特に、ノロウイルスのように少量でも感染を広げる可能性があるウイルスに対しては、従業員が正しい方法で手洗いを徹底することが重要です。
  • 食中毒予防の3原則「増やさない」
    「増やさない」とは、食材の保存時に食中毒の原因物質を増殖させないようにすることです。食品や食材は、冷蔵庫や冷凍庫などを使って適切に保存します。
  • 食中毒予防の3原則「やっつける」とは
    「やっつける」とは、食品や食材の加熱処理で菌を死滅させることです。
    例えば、ノロウイルスは熱に弱いため、食品の中心までしっかり熱が通るように、中心温度を85~90度以上にし、90秒間以上加熱することが大切です。
    また、飲食店などで新たなメニューを考案する際は、調理時の中心温度を意識して開発するようにします。

これらの原則を守ることにより、食中毒のリスクを大幅に減らすことができます。従業員ひとりひとりの意識と行動が、食中毒予防においては非常に大切なのです。

食中毒の予防で大切なこと2.「衛生管理意識を高める」

食中毒の予防において、従業員の衛生管理意識を高めることは非常に重要です。
特にノロウイルスのように、食品取扱者を介して食品が汚染されるケースでは、従業員の衛生に対する意識と行動が食中毒予防の鍵となります。
そこで、従業員が普段から実践すべき衛生管理対策を紹介します。

  • 下痢や嘔吐などの症状を確認し、確認した場合は業務に従事しません。これにより、感染の拡散を防ぐことができます。
  • 手指のケガや傷を確認し、確認した場合は使い捨て手袋などを着用します。これにより食品への細菌の移行を防ぎます。
  • 常に清潔な作業着を着用します。レンタルユニフォームを利用して衛生管理を委託することもひとつの方法です。
  • 菌が繁殖しやすい腕時計や指輪などの貴金属は着用しません。
  • 正しい手洗いを徹底します。手洗いは食中毒予防の最も基本的で効果的な方法のひとつです。

食中毒の予防で大切なこと3.「リスクを見える化する」

食中毒の予防では、購入した食材の鮮度チェックや正しい保存方法など、様々な衛生管理に努めることが重要です。ただし、これらの努力を最大限に活かすためには、従業員の衛生管理意識を高めることが不可欠です。
この意識を高めるために効果的なアプローチのひとつが、リスクや衛生管理の状態を「見える化」することです。

例えば、手洗い前後の手指や、洗浄前後の調理器具に付着している菌の状況の見える化です。これにより、リスクが具体的に確認できるようになり、従業員の衛生管理に対する意識が自然と高まっていきます。

見える化されたデータは、衛生管理の改善に必要なPDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクルを回していくための基となり、これにより衛生管理の継続的な向上を図ります。

食品を取り扱う事業者にとって、従業員の衛生意識を高めることは、食中毒予防の最前線に立つ重要な戦略です。リスクの見える化によって、衛生管理の意識を根本から改善し、食中毒のリスクを最小限に抑えましょう。

食中毒の予防で大切なこと4.「検査機関を利用する」

飲食店や食品加工工場などの衛生管理を向上させるためには、積極的に外部の検査機関を利用しましょう。以下のようなメリットが期待できます。

  • 専門性の高い検査
    外部検査機関は、食品安全と衛生に関する専門知識を持っています。これにより、食品が法的基準や業界基準を満たしているかを正確に評価することが可能です。
  • 客観性の確保
    内部検査では偏向や見落としが生じる可能性がありますが、外部機関による検査は客観的で公正です。これにより、消費者や規制当局からの信頼が向上します。
  • リスクの軽減
    食品の安全性を確保することで、食中毒やその他の健康リスクを軽減することができます。また、万が一の事態に備えて、リスク管理と危機管理の体制を強化することが可能です。
  • 教育とトレーニング(従業員の意識の向上)
    外部検査機関は、衛生管理のベストプラクティスなトレーニングやアドバイスを提供します。これにより、従業員の意識とスキルが向上し、日々の衛生管理が改善されます。
  • ブランドイメージの向上
    安全で衛生的な食品を提供することは、ブランドの信頼性を高めます。これは消費者の満足度を向上させ、長期的な顧客ロイヤルティの構築につながります。

飲食店や食品加工工場などの衛生管理を向上させるためには、積極的に外部の検査機関を利用しましょう。以下のようなメリットが期待できます。

食中毒などの衛生管理に必要な主な検査

飲食店や食品加工工場などの衛生管理を向上させるためには、積極的に外部の検査機関を利用しましょう。以下のようなメリットが期待できます。

  • 食品細菌検査
    食品細菌検査は、食品の衛生状態や食中毒菌の有無を検査し、食品の安全性を確保するための重要な検査です。これにより、食中毒の原因物質を確認し、適切な対策を講じることが可能になります。
  • ふきとり検査
    ふきとり検査は、食品やまな板、包丁などの調理器具、さらに従業員の手指などの衛生状態を見える化するための検査です。清潔な状態を保つことが食中毒予防に不可欠であり、ふきとり検査はその確認に役立ちます。
  • 異物検査
    異物検査は、食品中に混入した異物が何であるかを検査し、原因を究明することで信頼を回復するための検査です。異物混入は食品業界において信頼性の低下を招く重大な問題であり、早期発見と早期対応が重要になります。
  • 検便検査
    安全性を確認する検便検査を、定期的に実施することで衛生管理の意識向上にもつながります。また、症状のあらわれていない菌の保有者を発見し、食中毒の発生を未然に防ぐ役割も果たします。特に、ノロウイルスなどの感染症に対する早期対策に有効です。
  • 賞味・消費期限検査
    賞味・消費期限検査は、食品の賞味期限や消費期限を科学的な根拠をもとに設定するための検査です。正確な期限設定は食品の品質と安全性を確保するために欠かせません。
  • 成分検査
    成分検査は、食品の成分や栄養価を確認するための検査です。正確な成分情報は消費者に対して誠実な情報提供を行うために重要です。

衛生管理における検査の重要性は高まる一方で、適切な検査体制を整えることは自社の価値を向上させるため、その分大きな利益をもたらします。

まとめ

ウエルシュ菌による食中毒は、目に見えにくく、症状も比較的軽いものの、発生時にはパンデミック的なリスクが懸念されます。このため、事業者の衛生管理に対する意識、または具体的な管理が強く求められます。事業者は、このリスクに対応するために、日常的に正しい衛生管理を行い、リスクを見える化することで従業員の意識を高めることが最も大切です。

また、衛生管理に対する属人的な偏向は食中毒発生の大きなリスクです。そのため、客観的な評価やアドバイスを求めるために、外部の検査機関やコンサルタントを積極的に利用することも大変有効です。これにより、食中毒予防のための最新の知識や技術を取り入れることができ、さらには自社の衛生管理体制を定期的に点検し、必要な改善を行うことが可能になります。

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【参考/引用資料】
東京都保険医療局「ウエルシュ菌」
国立感染症研究所「ウエルシュ菌感染症とは」
厚生労働省「食中毒統計 令和5年(2023年)食中毒発生事例 速報」
食品安全員会「ウェルシュ菌食中毒」
前橋市「ノロウイルス食中毒に注意しましょう!」
首相官邸「ノロウイルス(感染性胃腸炎・食中毒)対策」

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